政府の原子力防災会議(議長・安倍晋三首相)が10月、関西電力大飯原発で重大事故が起きた際の広域避難計画を了承した。西川一誠知事は「広域避難計画は再稼働の同意判断の条件にしない」としていたが、結果的には間に合った形だ。しかし、この計画に沿っておおい町民が参加した訓練はまだ行われておらず、実効性向上は道半ば。住民の不安はぬぐい切れていない。(前田卓、小柳慶祥)
台風21号が接近した10月22日夜。若狭地方を貫く国道27号と若狭西街道、舞鶴若狭自動車道が冠水などで相次いで通行止めとなり、一時的に東西を結ぶ陸路が寸断された。おおい町では、京都府に抜ける国道162号や県道も土砂崩れが発生。中塚寛町長は11月25日、中川雅治原子力防災担当相との面談で「自然災害時の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている」と力を込めて訴えた。
交通インフラの脆弱性―。海と山に囲まれ、原発が集中立地する嶺南住民が向き合ってきた悩みだ。大飯原発からおおむね5キロ圏は、同町大島地区と小浜市泊、堅海の2区で計約1千人。小浜市内に通勤している大島住民の一人は「避難ルートは不安。原発事故が起きたときは、県道や国道が渋滞して動けないんじゃないか」と計画の実効性に疑問を投げ掛ける。
計画ではマイカーでの県内避難が基本。おおい町、小浜市の5キロ圏住民の避難先は、それぞれ敦賀市、越前市と定められている。道路状況などにより県内避難が困難な場合、兵庫県に移動することになっている。
大島の住民は県道から青戸の大橋を渡り、国道27号に出るルートのみ。その先は敦賀か兵庫県か、逆方向へのルート選択に迫られる。大島の元漁師の男性(79)は「どこに逃げていいか分からん」と打ち明ける。
県は大島地区に新たな原子力災害制圧道路(全長約3・44キロ、うちトンネル区間2・28キロ)を2014年7月に着工、19年度中の供用開始を目指しているが、進ちょく率は49%(予算ベース、16年度末現在)。同じ5キロ圏の小浜市2区でも現在、市街地に抜ける陸路は1本しかない。
その上で、大きな課題が横たわる。大飯3、4号機が再稼働した場合、県内で立地場所の違う複数原発が運転状態となる。しかし、広域避難計画は高浜、大飯両原発で同時に事故が起きる「同時発災」は想定していない。
知事の同意表明前日の26日、おおい、高浜両町は別々に原子力防災訓練を実施した。特におおい町の訓練は、要支援者の避難手順の確認に特化し、住民は参加しなかった。中塚町長は同時発災想定訓練の必要性を指摘した上で「国などと連携しないと(町単独では)困難な部分がある」と述べ、現時点での限界を認めた。
高浜原発から5キロ圏内で、大飯原発からは30キロ圏に入る高浜町の区長の一人は「舞鶴市とも連携した広域的な訓練や、悪天候下での訓練もするべきだ」と避難態勢の充実が遅れている現状を指摘し、こう続けた。「この段階で、高浜と大飯の再稼働は時期尚早ではないか」
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