政府は2017年3月までに、原発事故に伴う居住制限、避難指示解除準備両区域を解除する方針だ。「約束の日」まであと1年となった。
解除目標を決めた昨年6月の会議で、安倍晋三首相は「遅くとも(東京電力福島第1原発)事故から6年後までに避難指示解除を実現できるよう、環境整備を加速する」と宣言した。あれから8カ月が過ぎた。被災地の復旧・復興は進んでいるか。
帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域が設定され、全町民約1万8800人が避難生活を続ける福島県浪江町。相双地方の大動脈・6号国道が町中心部を南北に貫く。早朝から夕方まで、放射性物質を取り除く除染や福島第1原発の廃炉に携わる作業員を乗せた車両が行き交う。夜になると様相は一変する。明かりのつく家はなく、静寂の中で防犯用のゲートが次々と張り巡らされる。
避難指示解除とその後の住民帰還に向け、最大の課題は16年度内の完了を目指す国直轄除染だ。政府は町内の空間放射線量を低下させ、生活環境を整えたいとしている。しかし、一部の町民から「進捗(しんちょく)が遅れている」との指摘が出ている。昨年12月末時点の完了率は宅地34%、農地36%、森林は47%と50%を下回っており、環境省は作業員を現在の約3千人から4千人程度に増員して対応する。
馬場有町長は「浪江復興のため、必ず目標通りに終えてもらわなければならない」と求めている。
一方、住民が古里に戻るには上下水道や道路など社会基盤を復旧し、医療機関、商店など生活に不可欠な施設を再開する必要もある。浪江町は帰町開始の目標を、政府が避難指示を解除するとした17年3月に置いた。町民の健康面の不安を解消するため町営診療所の建設を進めている。今年10月を目標に、役場敷地内に仮設商業施設を設ける。
ただ、上水道の復旧率が約8割に上るのに対し、下水道は1割にも満たない。復旧・復興事業の本格化に伴い業者の確保が難しくなっているためだ。帰町開始の目標時期までの完了が危ぶまれている。町民から大型商業店舗の再開を求める声も上がっているが、現時点で見通しは立っていない。
内閣府原子力災害対策本部の担当者は「避難指示解除に向け課題は山積している。住民が安心して生活できる条件を早急に整えなければならない」と焦りを隠さない。(福島民報社)
東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域 年間積算線量により帰還困難(50ミリシーベルト超)、居住制限(20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)、避難指示解除準備(20ミリシーベルト以下)の3区域に分かれている。政府は2017年3月までに居住制限、避難指示解除準備の両区域を解除する方針だが、帰還困難区域は再編の見通しが立っていない。
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