「国が机上で運転再開しないと決めるのは簡単かもしれないが、大きな混乱が生じるのは地元だ」。西川知事の怒りは最後まで収まらなかった。政府は21日、日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉もんじゅ(敦賀市)の廃炉を、本県が了承しないまま一方的に決めた。誘致から約40年。「夢の原子炉」という国策の核燃料サイクルに長年協力してきた立地地域の信頼に亀裂が走った。
(牧野将寛、青木伸方、坂下享)【1面に本記】
「9月の関係閣僚会議から3カ月余りで、もんじゅの取り扱い方針が決まるとなれば拙速だ」
21日午前10時から開かれたもんじゅ関連協議会。西川知事は松野博一文部科学相、世耕弘成経済産業相に対し、政府の一方的なやり方をあらためて批判し、廃炉作業の体制の具体化と丁寧な地元説明を強く求めた。だが、知事が「(廃炉を)容認も了解もしていない」と話して会場を去った約3時間後、政府は関係閣僚会議を開き廃炉を決定した。
「納得できない。国は地元の意見を聞き反映すると言ったが、どこに敦賀市の話を聞いてくれた部分があるのか」。廃炉決定の報告を受けた地元敦賀市の渕上隆信市長は、怒りを押し殺すように記者団に話した。
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渕上市長が県内の原発立地3町長とともに9月20日に文科省や経産省を訪れ、もんじゅの存続などを要望した際、中川俊直経産政務官からは「廃炉にするかどうかは決まっていない」との返事だった。
しかしその翌日、政府はもんじゅの廃炉を含めた抜本的な見直し方針を決定。「ばかにされているような気がする」との不満は今回の政府決定でも変わらない。
高速実験炉「常陽」(茨城県)やフランスの高速実証炉「ASTRID(アストリッド)」の共同研究で高速炉開発を進める―として政府がもんじゅ廃炉を前提に結論を急ぐ中、県や敦賀市は「もんじゅ抜きで本当に核燃料サイクルの維持は可能なのか」と、理詰めで国の回答を引き出そうとした。
だが国はまともに応じなかった。最終調整真っただ中の今月中旬、県幹部からため息が漏れた。「国はこちらの疑問に何一つ答えていない」
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もんじゅを巡る政府の対応に、核燃料サイクル関連施設を抱える青森県下北半島の4市町村の首長は敏感に反応した。本県の立地4市町長と合同で11月25日、両大臣らに要請。「国策が立地地域の納得を得られないまま簡単に見直されるようなことになれば、国への信頼が揺らぐ」とくぎを刺した。
青森県むつ市もかつて、「原子力船むつ」で国策に翻弄(ほんろう)された歴史がある。1974年の試験航海で放射線漏れ事故を起こし、母港が決まらず20年近くの“漂流”の末にむつ市に寄港し、原子炉は解体され実用化に失敗した。「政策変更が立地地域にもたらす影響を考えたとき、福井と連携することが大切だと思った」と宮下宗一郎市長は話す。
「原子力政策は国民理解が当然重要だが、立地地域の理解と信頼がなければ進まない。今回は国の方針通りになったように見えるが、決して国も無傷ではない」。元県原子力安全対策課長の来馬克美福井工大教授は指摘する。
原子力政策は本県が抱える原発の40年超運転、再稼働、使用済み燃料問題など課題が山積みのままだ。「国は反省し教訓にしないと、このやり方では全国の立地地域との関係に影響を及ぼす」と警鐘を鳴らした。
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