
高浜3、4号機の運転差し止め仮処分を取り消す抗告審決定が出た直後、「不当決定」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告団=3月28日、大阪高裁前
高浜原発を巡る司法判断は揺れに揺れた。
まず2015年4月。福井地裁が「新規制基準は合理性を欠く」とし、高浜原発の運転差し止めを命じた。8カ月後には、裁判長が異動で交代していた同地裁が一転、関電の異議を認め、法的に運転可能となった。
高浜3号機は16年1月に再稼働したが、わずか2カ月後、今度は大津地裁が運転差し止めの仮処分を決定。関電は3月10日、営業運転中だった3号機を停止した。司法判断により稼働中の原発が止まったのは全国初で、国や電力業界には衝撃だった。
なぜ、同じ原発の安全性を争点としながら、司法判断が二転三転したのか。
原告側が求めるのは「絶対的な安全性」。他方、高い安全性を追求した上で「ゼロリスクはあり得ない」とする電力業界とは、そもそも考え方が交わらない。判決や決定内容をみると、司法判断も両者の相違同様、各裁判長がゼロリスクを要求するか否かという、前提の考え方の違いともとれる。
反原発派にとっては、万が一にも大事故のリスクがあれば、仮処分という手段において、原発を止められる可能性があることを確認できた。いくつかの原発訴訟で弁護団を務めている井戸謙一弁護士(63)=滋賀県=は「即効力があるのが仮処分の大きな意義。情勢やタイミングをみながら、戦術として活用していく」と話す。
ただ、これまで原発の差し止めを認めた高裁判断はない。関電は大津地裁の仮処分を巡る訴訟でも、大阪高裁の抗告審に照準を合わせていた。反原発派にとっては、高裁で勝訴するハードルもまた、見せつけられている。
そうした中、好材料もある。関電大飯3、4号機の運転差し止め訴訟の控訴審(名古屋高裁金沢支部)で出廷した、前原子力規制委員長代理の島崎邦彦東京大名誉教授の証言だ。「地震想定に欠陥がある」との厳しい指摘を同支部がどう判断するか。「他の訴訟にも島崎氏の証言は証拠として提出される」(弁護団)とみられ、反原発派は大阪高裁決定でしぼみかけた勢いを取り戻しつつある。
高浜原発の再稼働を目前に控えた15日、住民2人が運転差し止めを求める仮処分を福井地裁敦賀支部に申し立てた。これを含め大飯、美浜、高浜原発の全11基で計7件の裁判を抱える関電にとって、“訴訟リスク”は依然続く。
大飯訴訟の弁護団長を務める島田広弁護士(48)=福井弁護士会=は「原子力ムラに新たな安全神話を構築させるわけにはいかない」と対決姿勢をさらに強めている。